三章 自由への道(にんげんになるのが ゆめなんだ。)
【第18話】
武闘祭が開催されていたのは、三大国の一つサウニアルの西側にある都市の一つだった。丁度、ツヴァイテル大陸の真ん中辺だ。
世界規模の催しだから、大陸の中央で開催、というわけではないらしい。
先ほどまでいた円形闘技場が武闘祭をやるにいい塩梅だったそうな。闘技場自体は武闘祭のために新設されたわけじゃなく、最初からあったもので歴史も古いらしい。もともとはサウニアルの所有物だった。それを派遣協会が買い取ったのだ。派遣協会に売り渡す際には、サウニアル国内でも反対の意見が結構あったらしい。サウニアルは三大国で一番歴史の古い国だ。我がもの顔で振舞う派遣協会に反感を覚えたとしても不思議はない。
俺たちに逃亡先のあてはない。町を出て、街道を外れて、道なき道を闇雲に突き進んだ。どうしたもんか、とも思ったが、とりあえず今は、派遣協会の追手を振り切るのが先決である。向こうに村が見えた。あそこで色々装備を整えるとするか。俺たちは村へ入っていった。
村には、派遣協会の追手が来ている様子はなかった。そりゃそうだ。馬を飛ばしたとしても、ここへ着くにはあと四、五時間はかかる。陸上で俺《ゆうしゃ》たちより速い生き物なんているわけがない。
村へ着いた俺たちは、まず強盗をした。
しょうがないだろ。着の身着のままで逃げたんだ。金なんかない。
まあ、強盗といったって簡単なものだ。適当に民家に入って、
「勇者だ、金を出せ!」
とやればOKである。この世界、どこにいっても勇者への恐怖は根強いのだ。
自己弁護するようだが、強盗したといっても、ほんの少しの金や食料、衣類をもらっただけだ。決して、飢餓に苦しむ人間から作物を奪ったわけでもなければ、よぼよぼのじいさんから種籾を奪ったわけじゃない。
強盗を終えて、俺たちが次にしたことは強盗である。
あと、他にしたことといえば強盗だな。
そうだ、そういえば強盗なんかもしたな・・・・・・。
いや、この先、長い逃亡生活が予想されるんだ。金や物資はあるにこしたことはないだろう。
俺たちは村の一軒一軒に回覧板を回すように、行く先々で強盗をした。
しかし、こういうことするから嫌われるんだろうな、俺《ゆうしゃ》たちは。
村を出た俺たちは、手に入れた服に着替えた。念のため、髪を切る。長髪だったイレミアスとランプレヒトは短髪に、もともと髪が短かった俺は坊主頭となった。剣でやったもんだから、随分と不恰好な坊主になったが、まあしょうがない。
とりあえず今は遠くにいくことが先決だ。もとより収容所暮らしで行く当てもない。ただ、ひたすら真っ直ぐ、山間部を北上することにした。俺の案にイレミアスもランプレヒトも賛成した。正確にいえば、意見がなかっただけだと思うが。
何せ世間知らずの勇者の中でも、イレミアスはほとんど収容所から出ることはなかったし、ランプレヒトもこなした派遣業務の数はそれほど多くない。俺がパーティーのリーダーになるのも当然だった。
ツヴァイテル大陸の中央を南北に走るルークグラット山脈は険しい。普通の人間ではおいそれと入ってこれないだろう。勇者逃亡の報せが大陸全土に伝わるのにおよそ十日はかかるだろうと、俺は踏んでいた。その十日間の間はひたすら北を目指すのだ。