終章 帰還
(おお! あなたこそ まことの ゆうしゃだ!)
【最終話】
「それにしても、おまえらも物好きだな」
俺は丘の下を見下ろしていった。イレミアスとランプレヒトには手短に今起きていることを説明してある。
「何いってんだ。大体、俺はちょっと様子を見に来ただけだ。そしたら、丘の上に見た顔があるもんだからよ」
ランプレヒトはぶっきらぼうにいった。
「そうなのかい?じゃあ今からでも逃げる?」
イレミアスは笑みを浮かべた。
「・・・・・・・・・・・・この状況見て、逃げたら、俺は俺じゃなくなっちまうよ。俺だって、俺だってなあ・・・・・・」
ランプレヒトは慨嘆とも諦念ともつかぬ声を上げた。
天球儀の広場での戦いは、圧倒的に小型魔王たちの優勢だった。それは当然だろう。
保護部の戦いは、状態異常を引き起こす魔法を駆使するものだ。一方、魔王という存在は状態異常攻撃に対して高い耐性を持つ。最初《はな》から勝負になるわけはなかった。
小型魔王をこのままにしておいたとしても世界が滅んだりするわけじゃない。放っておいても世界的規模の災害になるわけじゃない。小型魔王は白服がいった通り、その能力は抑えられている。並のモンスターと比べたらはるかに強いが、脅威と呼ぶほどの存在ではない。それに、すでに派遣協会には急使が飛んでいることだろう。遅くとも三日後にはここに派遣協会の勇者が到着するはずだ。
だが、その間に小型魔王たちは、保護部を全滅させてしまうだろう。そして、本能のままに町の住民を殺戮するだろう。
「逃げるなら、今のうちだぜ」
この機を逃せば、再びあの収容所の中に閉じ込められることになるのは確実だ。
「いうなよ」
ランプレヒトは苦虫を噛み潰したような顔だ。
イレミアスは穏やかな笑みを浮かべている。
「ここで逃げるなら、君が僕の能力を封印しようとしたのを僕は断らなかったよ」
イレミアスはいった。
イレミアスはかつて、不運が降りかかるのを防ぐために能力を封印しようとしたのを断っている。その気持ちは俺にもよくわかる。俺たちにとっては自分の能力こそが自分のよって立つアイデンティティーなのだ。そして、能力は使われてこその能力である。
俺たちは天球儀広場のほうへ向かって歩き出した。
何故だろうか。今になって、空の青さも生い茂る草も頬をなでる風が急に愛しく感じられた。
フィーネが驚いたような声をあげた。
「おじちゃんたち、あそこに行くの?」
「ああ」
「何で?つかまっちゃうんでしょ!」
フィーネは悲しそうな不思議そうな声でいった。
俺たちは顔を見合わせた。
「あそこで困ってる人がいる」
イレミアスは天球儀の広場を指差した。
「あそこで暴れているのは、魔王だ」
ランプレヒトはモンスターの群れを指差した。
「そして、俺たちは・・・・・・」
俺はいった。
「おれたちは?」
フィーネが訊き返した。
俺たちは笑った。
そして叫んだ、大空に届くように。
「俺たちは勇者なんだ!」(了)