カスタム検索
どうして〜
新宿駅構内の地下を歩いていたらティッシュ配りをしている人を見かけた。
丁度いい。今、まさに鼻をかみたいと思っていたところなのだ。
無論、ハンカチ・ティッシュの類を常備しているような人間ではない、俺は。
そんな用意周到・遠謀深慮・神算鬼謀の人であれば、天下を取っていたに違いない。
天下取りに成功さえしていれば、こんなところで鼻を垂らしてアホ面さらさなんで済んだはずだ。そうだ、TENCAを取ろう!内田の野望。
もし、俺が天下を治めたのなら取り敢えず、主要な幹線道路には50メートルおきにティッシュを置いとくな。しかも箱の奴。
将来、世に打って出た時の支持基盤が花粉症・鼻炎持ちの人間だという重要なことを今確認できたことに満足しつつ、ティッシュ配りの人へ急ぐ。だってもう限界だから。

だが、ティッシュ配りの制空圏内に近づくもティッシュ配りは微動だにしない。
並のティッシュ配りであればこうは行かない。ティッシュを渡すことに気が逸ってそわそわするものである。こんなことが出来るのはよっぽどの達人に違いない。一見するとどこにでもいるような女性である。年は二十代前半といったところか。だが古来よりその道を究めた達人の外見は平凡であり特に目立つものではないことが多いという。例えばフリーザの最終形態がそうであるように。
この女性も今は全く渡すそぶりは見せないながらも、その視線を俺の一挙手一投足に注いでおり、手の届く範囲に入るやいなや電光石火の早業でティッシュを渡してくるのだろう。
一歩、また一歩と進む。だが、まだ動きはない。更に距離を詰める、もう完全にリーチの範囲内である。しかしティッシュを配る気配はない。
これは見誤ったか。
達人なんかではない。
そう、もっと上のクラスのティッシュ配りだったか。
達人どころではない。その業はもはや神の域に入り、すれ違いざまに人の懐にティッシュをしのばせ、強引にティシュを捌いていくという空前絶後の業の持ち主。百年に一人の遣い手。 ポケットティッシュの歴史が百年あるかどうか、知らんが。

ティッシュ配りの前を通り過ぎ、3メートルほどのところで一応確認してみる。
俺には気付けなかったが、おそらく懐にはティッシュが入っているはずである。
ない。
では、カバンの中か。
ない。
我知らず頭を振り嘆息した。百年に一人の遣い手も人の子、失敗することもあるだろう。だが、よりによって俺の時に失敗するとは・・・

というか引き返して「ティッシュ貰っていいですか」と声に出したよ。ティッシュ手に入れたよ。だってもう垂れてたから。

で、何で最初ティッシュ貰えなかったかというと、それが小田急百貨店のクリアランスセールのものだったから。レディスの奴。
確かに、俺は女性ものの在庫一掃には役立たなさそうではある。だがティッシュ配りの人には言いたい。もっと色んな可能性を考えろと。
男だって女物の服を買うことはあるだろう。女性へのプレゼント用に買うとか。

「おめえの顔面からはそんな可能性微塵も感じんわ!」というのであれば、こう思っていいからティッシュを渡してほしい。
「この女装癖の変態野郎が!!